Q053
うつ病に効果的と言われる「認知行動療法」とは何ですか?
A053
A.心理療法のひとつです。
私たちの心や生活は、さまざまな要素の相互作用から成り立っています。たとえば、私たちは状況や他者(家族、同僚、友人など)と日々、影響しあいながら暮らしています。同様に、私たち自身においても、認知(頭のなかに浮かぶ考えやイメージ)、行動、気分・感情、身体は、つねに相互作用しあっています。認知療法・認知行動療法は、そのなかでも、特に「認知」と「行動」に焦点をあてながら進めていく心理療法です。
何かストレスに感じるようなことが起きたとき、私たちは必要以上に落ち込まないよう、認知や行動の修正を無意識のうちに行っています。しかし、うつや不安などで、心が元気でなくなってしまうと、そのような修正を一人で行うことができなくなってしまいます。認知療法・認知行動療法では、患者さんが、自分の気持ちを再び自分で立て直すことができるよう、さまざまな心理学的手法を用いて援助をします。
Q052
「難治性うつ病」は重症ということでしょうか?
A052
A.治りにくいからといって、重症とはいえません。
通常の治療では、なかなか症状が改善しない患者さんがいらっしゃるのは事実です。こうした場合、「難治性うつ病」と呼ばれることがあります。この言葉は、"重症"というイメージを持ちがちですが、必ずしもそうとは限らず、実は定義はいろいろです。「1種類の三環系抗うつ薬に反応しないもの」という比較的広く定義付けをしているものから、「2種類の抗うつ薬に反応しないか、1種類の抗うつ薬と通電療法に反応しない」、「最低2年間のうつ病相の持続」という条件を加えたものまであり、とても幅広い状態を含んでいるのです。
こうした「難治性うつ病」の原因としては、次のようなことが考えられています。
- 処方されている薬が多すぎて、副作用が出ている
- 他に身体的な疾患をもっている
- 実は、他の精神疾患だった
- 他の精神疾患を合併している
- 薬を指示通りに飲んでいない
- 職場や家庭の環境が厳しく、治療に非協力的
「難治性」とされた患者さんでも、比較的軽い症状を残しつつも、職場復帰をされている方もいらっしゃいます。悲観せず、前向きに治療に取り組んでいきましょう!
Q051
「自傷行為」とは何ですか?
A051
A.自分の手で故意に行われ、死に至ることがなく、社会的に認められない、身体を害する行為を自傷行為と呼びます。
自傷行為という言葉は範囲が広く、爪噛みやピアスなどよく見られるものから始まって、より重大なものまで様々です。死に至ることがない、というのはたまたまそうだっただけで、自殺企図がある場合も含みますし、自傷を繰り返すことで実際に死んでしまう場合もあります
なぜリストカットをするのかは人によって全く異なり、場合によっては正反対の理由で行う方もいます。例えば、現実感を取り戻そうとして行う方もいれば、逆に現実から離れるために行う方もいます。あるいは他の人に自分の辛さをわかってほしいために行う方もいれば、逆に自分だけの秘密を持つために行う方もいます。死にたいと思って行う方もいれば、生きるために行う方もいます。他にも意識をトランス状態に変化させるためだったり、疎外感や空虚感から抜け出るためだったり、自分がバラバラになっている感じをつなぎとめるためだったり、コントロールできないような感情を抑えるためだったりします。また、外傷体験を受けている方は、その外傷を「自分が悪いからだ」と感じて自分を責めるためだったり、その外傷� ��な場面を自分で能動的に繰り返すことで乗り越えようとする努力の表れであったりする場合もあります。
こうした様々な背景を持つリストカットですが、一つの共通する特徴があります。それは「他の方法では自己表現をすることが難しい」ということです。そのため、治療では、自傷行為以外の方法で自己表現ができるようにしていくことが、もっとも一般的です。
Q050
「通電療法」とは何ですか?
A050
A.かつては「電気ショック療法」などと呼ばれていました。現在は改良され、正式には「修正型通電療法」といいます。
通電療法は、1930年代に開発された、実はとても古い治療法です。今日のような形になるまでに、色々な改良がなされてきました。なかなか改善がみられないうつ病に効果があるとされています。
通電療法のしくみは、電極パッドを片側か両側の頭皮に貼り付け、脳に電流を流すことによって、神経伝達物質の働きを活性化させるというものです。以前は全身に痙攣を起こさせていましたが、現在の方法では、改良され、脳が痙攣と同様の反応を起こすだけとなっています。
Q049
糖尿病とうつ病の関係は?
A049
A.糖尿病患者さんを対象にした様々な調査で、糖尿病患者さんがうつ状態になっているケースが多いことが分かってきました。
ただし、全ての糖尿病患者さんがそうなるわけではありません。周囲に親身になって支えてくれるパートナーがいたり、仕事があり経済的な不安が少ない患者さんは、独身者や仕事がない患者さんよりも比較的うつ状態になりにくいとも言われています。
医師や周囲の人が、治療の大変さやこれからの不安など、患者さんが抱えるこころの問題を早く適切にケアしてあげることが、うつ状態にならないためには大切です。 おくすりによってうつ状態を改善するという方法もあります。これまで使われていたおくすり(抗うつ薬)の中には、糖尿病の病態に良くない影響を与えるものもあったのですが、数年前から日本で使用されるようになったSSRIという種類の抗うつ薬は、糖尿病の治療には悪影響を及ぼさないと考えられています。
患者さんにどのようなこころのケアが必要になるかは、医師が患者さんの状況をみて決めてくれます。
Q048
いろいろな"こころの病気"の原因となる「悩み」はどうして起こるのでしょう?
A048
A.自分の身の回りに起こる変化や環境に対応できないことから
悩みがうまれがち
身近な人々との関係や、自分の社会的な立場は、常に一定ではありません。良い変化もあれば、悪い変化もありますが、いずれにせよ、私たちは、周囲の環境の変化にさらされながら生活しています。
環境の変化に対しては、だれしもが多かれ少なかれ、心の負担を感じるものです。環境が変われば、自分も新しい環境に対応するために変化を迫られるからです。しかも、その対応は、いつもうまくいくとは限りません。うまくいかず、つまずくことも多くあります。そうしたつまずきを受け止めきれないとき、私たちの心には、不安がうまれ、強まっていきます。その不安が強まっていけばいくほど、逆に環境の変化が過剰に意識されるようになり、「うまくいっていない」というつまずき感が増強されてしまいます。
私たちは、ついつい、こうした"つまずき感"にとらわれがちですが、むしろ、こうした不安や恐怖はそのままに、その時点でできることを淡々とこなしていくことが、"つまずき感"をも減らすことにつながることが多くあります。
環境の変化にさらされがちなこの季節、目の前にある、できることをまずはやってみることから始めてみましょう!
Q047
「双極性のうつ状態(いわゆる躁うつ病のときのうつ状態)」は、「うつ病」と同じ薬で治りますか?
A047
A.基本的に、治療の仕方が違います。
躁とうつは、正反対の状態なので、薬も正反対のものを使うと思われがちです。しかし、双極性障害でのうつ状態は、気分が大きく上下に乱れた状態でのうつ状態なので、気分をもちあげる、というよりは、気分の波を穏やかにする目的で、気分安定薬という種類の薬を使います。
抗うつ薬を使った場合、気分が上がりすぎて、躁転してしまう可能性がとても高いのです。気分安定薬は、特効薬というほどではないにしろ、現在、双極性障害の治療と再発予防で効果が認められている、第一選択薬です(場合により、気分安定薬と抗うつ薬を併用することもあります)。
双極性障害は、単極性うつ病よりも再発率が高いため、効果のあった気分安定薬をそのまま継続して服用することが再発予防につながります。症状が落ち着いてからも、年単位で服用することが多いようです。また、薬をやめる場合にも、血液中の濃度を確認しながら、少しずつ服用する量を減らしていくことになります。
Q046
社会不安障害と社交不安障害は別のものですか?
A046
A.同じ疾患(病気)のことを指しています。
いずれも英語名でいうところの"Social Anxiety Disorder(略称:SAD)"を指しています。
日本では最近まで、英語名を直訳した「社会不安障害」という名称で呼ばれていましたが、「社会不安」という言葉には誤解も多いことから、2008年に日本精神神経学会において、より実態に近い表現の「社交不安障害」という名称に変更されました。
他人に悪い評価を受けることや、人目を浴びる行動への不安により強い苦痛を感じたり、身体症状が現れ、次第にそうした場面を避けるようになり、日常生活に支障をきたすことを、社交不安障害(SAD)といいます。
この社交不安障害は性格の問題ではなく、精神療法や薬物療法によって症状が改善することがある心の病です。ちょっと恥ずかしいと思う場面でも、多くの人は徐々に慣れてきて平常心で振る舞えるようになりますが、社会不安障害(SAD)の人は、恥ずかしいと感じる場面では常に羞恥心や笑い者にされるのではという不安感を覚え、そうした場面に遭遇することへの恐怖心を抱えています。
思春期前から成人早期にかけて発症することが多いこの病気は、慢性的になり、人前に出ることを恐れるようになると、「うつ病」等のさらなる精神疾患の引き金となることもあります。
Q045
非定型うつ病とはなんでしょうか?
A045
A.うつ病のひとつのタイプを言います。
ふつう「うつ病」といわれるのは、「定型うつ病」とか「メランコリー型うつ病」と呼ばれるもので、気分の落ち込み、意欲や食欲・集中力の低下、不眠などがおもな症状となります。
「非定型うつ病」は、この定型うつ病とはタイプの違うものを言います。定型うつ病とは症状のあらわれ方が違ううえに、対処の仕方も大きく異なるため、注意が必要になります。
非定型うつ病は、何か楽しいこと、望ましいことがあると、気分がよくなります。普通のうつ病(定型うつ病)では、何があっても元気が出ないのに対し、出来事に反応して気分が明るくなるのが大きな特徴です。
その他、下表にあるように、タ方になると調子が悪くなる、過食や過眠ぎみになる、などの傾向もみられます。定型うつ病では休養をとることが肝心ですが、非定型うつ病では、昼間は目的を持って活動することが、リズムの乱れを改善するために大切です。
Q044
「不安」はない方がいいのでしょうか?
A044
A.そんなことはありません。
不安とは、「明確な対象をもたない怖れの感情である」と定義されています。つまり、自分自身に漠然とした危険が迫り、自分がそれに対処できないかもしれないと感じたときに、生まれる感情です。
今までに不安な気持ちを一度も感じたことがないという人はいないはずです。不安は私たちが日常的に感じている感情で、人が生きていくための一種の防衛反応であるとも言われています。例えば、外出する前にふと不安になってドアのカギを確認し、鍵を閉め忘れていたことに気が付くということもありますし、女性は暗い夜道では不安を感じるために、なるべく一人で夜道を歩くことを避けたりします。このように、もし人が不安を感じなければ、私たちの生活に様々な危険が生じる可能性があります。
不安を感じると、私たちの身には、3つの反応が現れることがわかっています。ひとつは、身体的な反応、そして非常に強い不快感、最後に回避行動です。
こうした反応が起こりえることを知ることは、過度な心配をなくしたり、不適応的な行動を修正するのに役立ちます。