双極性障害(躁うつ病)の妊娠・出産・授乳
第2版作成日:2009/1/26
第1版更新日:2008/1/29
第1版作成日:2005/8/18
監修について:
医学的内容は私(azami)の知人の医療関係者にチェックしてもらいました。
しかし最終的に、私が文責を負います。
azamiさんのブログ
はじめに
用語集
1.双極性障害で服薬中の女性は妊娠・出産できますか
2.服薬・受診の注意点は何ですか
2−1●計画妊娠の場合
2−2●偶発的妊娠の場合
3.妊娠中から分娩後の心理・社会的治療
4.妊娠中から分娩後までの薬物療法
1)気分安定薬 2)抗精神病薬
3)抗うつ薬 4)ベンゾジアゼピン系および類似薬(BZ系)
5)修正電気けいれん療法(mECT) 6)出産前後の問題(薬物離脱症候群など)
5.双極性障害は遺伝しますか
6.出産後の注意点は何ですか
7.男性が双極性障害の薬を飲んでいて、パートナーが妊娠した場合の影響
参考文献
はじめに
星和書店の「双極性障害の治療スタンダード」(文献1)には、妊� ��・出産について、短い記載があります(p.27)。
第1版は、それとアメリカ精神医学会(APA)プラクティス(診療)ガイドライン2002(文献2)をもとに、サキさんがまとめた質問とその回答、説明の文章を加えて作成しました。
私が2005年に書いた第1版はだいぶ古くなって、少し楽観的に書かれています。その後海外のガイドラインや文献が次々と出て、その内容は悲観論と楽観論が混ざっています。(ガイドライン3-4,文献5-14)
医学の進歩は早く、時間が経つと陳腐化して、更新が必要になります。そして、更新しようとすると、根拠のデータを英文文献に頼ることになり、日本の実情と離れる可能性がありました。
しかし第2版は海外文献(3,5-9,11,13)を中心にまとめました。
個人差も大きいので、実際の適応は主治医を中心とする、精神科、産科、小児科-治療グループと必ず相談して下さい。
双極性障害の妊娠・出産・分娩後の管理は、リスクと利益をどう評価するかにかかっています。
薬による胎児・新生児・乳児-妊婦・授乳婦への危険性は、続ければ子に有意の危険を及ぼしますが、変更/中止して母親に重症の気分エピソード(躁・鬱・混合エピソード)が起きたら、母と子の両方に相当の危険をもたらします。 双方のリスクと利益のバランスを考慮しなければなりません。
用語集:なお、本文中で使用している略称、総称、用語は、以下のようなものです。双極性障害(Bipolar Disorder)≒躁うつ病(Manic Depressive Illness)
この病気の古典的名称は躁うつ病でしたが、国際分類では双極性障害が使われるので、このコンテンツでは「双極性障害」に統一します。炭酸リチウム(一般名*)(以下リーマスと総称)=最も代表的な気分安定薬。商品名はリーマス、リチオマールなど。
バルプロ酸ナトリウム(一般名*)(以下デパケンと総称)=気分安定薬、抗けいれん薬の一つ。商品名はデパケン、セレニカ、バレリン、徐放剤デパケンR、セレニカRなど。
カルバマゼピン(一般名*)(以下テグレトールと総称)=気分安定薬、抗けいれん薬の一つ。商品名はテグレトール、テレスミン、レキシン、カルバマゼピン「アメル」など。BZ=ベンゾジアゼピン(BZ系および類似薬はBZ受容体に結合して作用し、BZ系とここでは総称します。大部分の抗不安薬、睡眠薬がこれに属します。)
クロナゼパム(一般名*)(以下ランドセンと総称)=BZ系の抗けいれん薬。気分安定薬作用があると一部では言われています。商品名はランドセン/リボトリール。SSRI=選択的セロトニン再取り込み阻害薬(セロトニンという神経伝達物質の再取り込みを阻害してシナプスのセロトニンを増やす、新しいタイプの抗うつ薬。商品名はルボックス/デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト)
SNRI=セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SSRIと似ているが、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害する抗うつ薬。商品名はトレドミン)
FDA=アメリカ食品医薬品局*一般名は、1つの薬に1個だけ命名され、論文・教科書などで使われる名称で、全世界共通です。論文・教科書・ウェブサイトなどでは,一般名のみ書かれている場合があります。
一般名とジェネリック(後発医薬品)が同じ名称になることもあります。後者の場合は会社名� ��つきます(炭酸リチウム「ヨシトミ」など)。
このコンテンツでは、先発薬の商品名で総称していますが、一般名のついているジェネリックも多いので、すべての薬の初出では一般名をつけました。
1.双極性障害で服薬中の女性は妊娠・出産できますか
:できます。
第1版では「妊娠中は精神的に落ち着いて、双極性障害が安定することが多いのですけど、出産後状態が悪くなる人がいます」と書きました。そのような研究もあったのですが、最近の研究は妊娠して悪化する可能性があり、安定するとは言えないと結論しています(文献3,5,13)。
結局、妊娠中と分娩後の両方で気分変動と悪化を起こす可能性があるので充分な注意が必要です。
次に、計画妊娠か偶発的妊娠かによって、対処法が異なります(「2.服薬・受診の注意点は何ですか」参照)。
薬によって催奇形性の強いもの、危険と有益性のバランスから飲むのもやむをえないもの、断言は出来ないけど比較的安全なものがあります。
理想は妊娠中はなるべく薬なしか、最小限の比較的安全な薬のみで、双極性障害が安定しているのが良いのです。
しかし、妊娠中に双極性障害が増悪しても、治療に使える比較的安全な薬はありますので、安心してください。
薬の細かい説明は「4.妊娠中から分娩後までの薬物療法」をご参照下さい。
妊娠のタイミングは、双極性障害発症初期の方が病相の間隔や寛解期が長く、後期の方が短くなるので、可能ならなるべく間隔があいている初期の妊娠をねらいます。
(注:このような病相の短縮化は、気分安定薬による充分な治療をしていない場合の経過観察なので� ��治療されている方の場合はあまり心配はいりません。)
2.服薬・受診の注意点は何ですか
:双極性障害そのもので、妊娠に危険を及ぼしたり、胎児への影響はないでしょう(文献21、表1:精神疾患が妊婦転帰に与える影響について)。
しかし、病気が不安定で、病気だという自覚(病識)がない、食事・安静をとらないなど、健康に問題があるのでは困ります。病気が落ち着いて、本人・家族の受け入れ体制が充分な時が望ましいです。
服薬・受診の注意点は、病気の知識をもとに、早めで頻回の診療によって、病気を落ち着かせ、どの薬を漸減・中止し妊娠に持っていくか計画することです。医師-本人-家族の親密な連携が求められます。
でも、もっとも尊重されるべきなのは本人の意思だと思います。
2−1
●計画妊娠の場合もし妊娠を正常気分で計画しているなら、気分安定薬の漸減・中止が望ましいです。目安は2−4週間間隔で25%ずつ漸減です。急減・中断は双極性障害の増悪を誘発する可能性があります。
もちろん、過去の病歴を配慮すべきです。Sachs先生の推薦によると(文献11)、
▼もし一番最近のエピソードが1年以上前で、過去に数回のエピソードしかなかったら、薬物を中止することを試みます(少なくとも妊娠第1三半期だけは中止が望ましいです)。
▼もし一番最近のエピソードが1年以上前で、過去に頻回のエピソードがあるなら、薬物は続けるけど、次の生理がこないか、妊娠テスト(高感度)が陽性になったら、数日ずつ漸減、1-2週間で中止します(注1)。
▼もし一番最近のエピソードが1年以内なら、妊娠は控えて、充分な予防量で薬物は続けます。
Ward先生やイギリス(NICE)ガイドラインの意見では、最後の場合、次のようになっています。
▼もしどうしても気分エピソードが安定しない場合、単一気分安定薬を妊娠中から分娩後まで飲み続けるという選択を主治医と相談します(文献12)。あるいは気分安定薬を飲まずに、抗精神病薬(少量定型または非定型抗精神病薬(注3))で安定させて、妊娠〜出産します(文献3)。
ただし日本では、計画妊娠なのに妊娠前に経過が安定せず、薬を飲んだまま、妊娠中とくに妊娠第1三半期を過ごすのは、主治医が許可しないと思います。せめて、妊娠第1三半期は薬物なしを目標にすべきです。
にきび治療の[OK]をしながらpregnnat
(注1)市販の高感度妊娠判定薬と排卵検査薬を組み合わせると、正確・早期に妊娠週数を知ることができます。
もし、妊娠中に主要薬物(とくに気分安定薬)を変更せずに服用し続けるならば、胎児のモニターを超音波(高解像度、簡単)、妊婦のα-フェトプロテイン採血(注2・簡単)と羊水穿刺(大変)などで行えます。中絶をする選択をしないなら、羊水穿刺などの侵襲的胎児モニターをする必要はないけど、出産後の準備ができるから(前2者などの)非侵襲的胎児モニターはお薦めです。(注2)αフェトプロテインは肝細胞癌のマーカーとして有名ですが、妊婦血清中のαフェトプロテインは神経管欠損やその他の胎児の異常(例:ダウン症候群)を検出するスクリーニング・マーカーとして有用です。
これを含めて、他の マーカーと組み合わせた、トリプルマーカーテスト、クアトロマーカーテストもあります。(注3)定型抗精神病薬は少量でないとうつ病相の誘発(うつ転)が心配され、高プロラクチン血症で妊娠しにくくなる副作用があります。また、定型抗精神病薬を持続的に使っても、躁病の再発を予防しなかった(つまり気分安定薬作用はない)というデータもあります。そのためかNICEガイドラインはできるだけ少量の使用を勧めています(文献3)。
非定型抗精神病薬はうつ転や副作用は少ないですが、新しいので安全性はやや不確かです。
もし薬物が減量もしくは中止される場合は、頻回の気分のモニターを診察ですべきです。
気分の変動で再燃が最初に疑われたらすぐ(先手必勝的見方)、または確かに疑われたら(保守的見方)、心理・社会的治療や薬の再開を考慮すべきで、特に妊娠第1三半期をすぎていればそうです。
それから薬を使用していないような場合、分娩直前あるいは分娩直後から薬物を再開すべきという考えがあります。
それは、1回以上産後エピソードの既往のある双極性障害女性の場合は、治療なしの場合、分娩後躁病(分娩後精神病・双極性うつ病を含む)が20-70%になるという報告があるからです(文献3-5,9,13)。
しかし日本ではこの時期の再開は一般的でなく、経過観察する医師、患者が多いでしょう。
リーマスについて、妊娠第1三半期中止、その後再開、分娩直前中止、分娩後再開という考えがありました。それは分娩直前・直後に体液バランスの変動をおこして血中リチウム濃度を調整しにくいからです(文献9)。
NICEガイドラインでは、妊娠を予定している女性は、デパケン、テグレトール、リーマス、パキシル(一般名パロキセチン)、ベンゾジアゼピン(BZ)系の長期投与を避けるべきと書いています(文献3)(注4)。
(注4)すべての妊娠可能年齢の女性は、避妊方法、服用薬剤と催奇形性を検討し、最少の催奇形性の薬剤による維持療法を選ぶこと。他の妊娠危険因子であるタバコ、アルコール、肥満などを除去するようにすること。
すべての人に葉酸1mg(妊娠前から)、抗けいれん薬服用者は3-5mgの服用が推奨されます(文献3,5,13)。
2−2●偶発的妊娠の場合
もし、予定外で妊娠してしまった時でも、パニックにならないで下さい。50%は偶発的妊娠という統計もあるからです(文献5,13)。
まず妊娠週数を、産婦人科で正確に確定します。
1)妊娠初期(妊娠第1三半期)か、
2)それ以降の妊娠中期(妊娠第2三半期)、または後期(妊娠第3三半期)かを見極めます。
1)で双極性障害が安定しているなら、妊娠に危険な薬の、漸減・中止を考慮します。重要でない薬も漸減・中止します。
具体的には、気分安定薬は、デパケン>テグレトール>リーマスの順で妊娠危険性があります。(文献5,6,13)
BZ系の、睡眠薬、抗不安薬などは、重要でないので出来ればやめます。
すべて中止して、定型抗精神病薬に変更することも考 慮します。
デパケンをテグレトールまたはリーマスに変更するのは、過去に使って良い反応があった場合のみに取りうる方法で、未知ならこの時期のこの変更は危険かもしれません。
気分安定薬が併用されている場合は、併用は望ましくないので、妊娠中の危険性や有効性、過去の薬の反応性などを熟考し、単剤に変更して、更に中止できるか考慮します。デパケンとテグレトールの併用は特に危険なので、妊娠中(できれば妊娠前から)使用しないようにします。
不安定でも、妊娠継続を望むなら、単一気分安定薬あるいは抗精神病薬(少量の定型抗精神病薬または非定型抗精神病薬)で安定させて、妊娠中から分娩後まで飲み続けるという選択を主治医と相談します(文献12,13)(上記注3参照)。
2)で、双極性障害が� �安定ならば、このまま気分安定薬を単剤、最少量で継続することを考慮します。特に妊娠第3三半期(後期)ならそうです。重要でない薬は漸減・中止します。
1)と同様、抗精神病薬に変更することも可能ですが、すでにもっとも危険な時期で薬にさらされているので、今さら変更しないという考えが成立します。
もし双極性障害が安定しているなら、妊娠第2・3三半期を通じて気分安定薬の漸減・中止が考えられます。
そこまで安定していないなら、妊娠第2三半期を中止して妊娠第3三半期の適当な時期から再開するか、分娩直後から再開して、分娩後の双極性障害増悪(分娩後精神病を含む)を防ぎます。
しかし日本では、上述のように分娩後の双極性障害増悪に備えて予防的に投薬を開始したり、増量するのは� ��般的でありません。
3.妊娠中から分娩後の心理・社会的治療(文献3-5)
妊娠中あるいは分娩後に双極性障害が(軽度に)増悪した場合の治療として、薬物治療の前あるいは併用して、心理・社会的治療が考えられます。
心理治療(療法)は、認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)などの精神療法や、カウンセリングのことです。社会的治療は、患者の負担を軽くするための環境調整などです。
具体的には患者の置かれている環境面を分析し、家事・育児などの負担軽減、家族・家事代行サービスなどによる役割分担などで、充分な休養をとれるようにします。
妊娠中の双極性障害増悪時に、心理・社会的治療は、妊婦・胎児への危険性がないので、第一に考えられ、説明され、適応ならば実行されるべきです。
ただ 、増悪が重症の場合は速やかな薬物療法が必要な場合もあり、心理社会的治療にこだわりすぎて薬物治療が後手にまわるのもいけません。
薬物療法を使うにしても、心理・社会的治療を併用すると、効果が増したり、再発が防げて、寛解期間が長くなるそうです。
この問題は精神科の主治医の先生とよく相談して、全体の治療の一環として行ってください。
CBTやIPTは海外では盛んな精神療法ですが、日本ではカウンセリングの方がふつうでしょう。
ふつうのカウンセリングでも一定の効果はあるし、周囲の理解による環境調整も有力な方法です。 とにかく患者を孤立させないこと、周囲からの対人関係の輪の中に入れておくことが大事でしょう。
4.妊娠中から分娩後までの薬物療法
薬物療法には、催奇形性をはじめ種々の有害反応(副作用)があります。
ここでは催奇形性など重要な副作用を、薬の種類ごとに説明します(文献21,表2)。
1)気分安定薬 (文献3-6,9,13,16-19)
双極性障害の妊娠で問題なのは、主要な気分安定薬である、リーマス、デパケン、テグレトールに催奇形性があることです。
特に妊娠第1三半期が危険と言われています。
ただし受精して、受精卵がまだ細胞として浮いている時期は超初期とよばれて比較的安全なようです。ですから薬を飲んでいて妊娠してしまった場合は上述の「2−2●偶発的妊娠の場合」を参考にして、主治医と相談してください。
「おくすり110番」という巨大なお薬のサイトに、「妊娠とくすり」に関する一般的解説があって、参考になります。
妊娠とくすり
リーマス(一般名炭酸リチウム)は添付文書に妊婦禁忌と記載されています。
ヒトで心臓奇� ��の発現頻度の増加が報告され、動物実験では別の奇形が報告されているからです。
初期のリーマスの心奇形のデータは間違っていて、最近の数字は0.05-0.1%で、昔より1/10-1/100少なく、正常人対照の10-40倍らしいです(文献5,6)。
正常人の10-40倍というとびっくりしますが、元々心奇形の絶対頻度が小さいのでそれ程の危険ではありません。
リーマスの全体の先天異常(心奇形を含む)は、1.5-3%と言われます。
産後のうつ病の記事を投稿する
デパケン(一般名バルプロ酸ナトリウム)は妊婦に原則禁忌です。徐放剤は血中濃度が安定するので副作用・催奇形性を減らせます。
「原則禁忌」は分かりにくい表現ですが、治療上の有益性が危険性を上回る時は危険を覚悟で使うということです。神経管閉鎖不全、心奇形などの頻度が有意に上がります。
薬を飲んでいないてんかん女性の先天異常の発生率は2-4%と言われます(正常女性よりやや多い)。
FDAによると、CDC(疾病予防管理センター)の統計で約1000mgのデパケンを妊娠第1三半期にとると、新生児に10.7%の先天異常(神経管閉鎖不全は1-2%)を生じ、対照となる種々の抗けいれん薬の単独投与の合計の分析では2.9%、正常人対照の神経管閉鎖不全は0.14-2%であったそうです(文献20)。
テグレトール(一般名カルバマゼピン)の添付文書は、妊婦には治療上の有益性が危険性を上回ると時のみ投与することと記載しています。神経管閉鎖 不全、発育障害が多いとの報告があるからです。
テグレトールでは、ある調査で主要な先天異常は2.5%または4.5%であったそうです(文献3-5,6,10,13)。
以前よりテグレトールの方がデパケンより妊娠で安全とされ、その後、テグレトールの副作用のスチーブン・ジョンソン症候群などからデパケンと全般危険度はあまり変わりないと言われたものの、2006年のFDA警告改定でデパケンの催奇形性の数字がまた上がりました(文献10,13,20)。
この3つの気分安定薬は胎児に危険があるので、妊娠の前に双極性障害を安定させ、妊娠数週間前から中止するのが望ましいです。
どうしても、これがないと不安定になる人の場合、妊娠第1三半期を中止して、その後再開する方法も考えられます。
また、その妊娠第1三半期を、ランドセン( 一般名クロナゼパム)、(非)定型抗精神病薬など(下記参照)でしのぐことも考えられます。
日本では添付文書などより危険度は、リーマス>デパケン>テグレトール>ランドセン>抗精神病薬です。
海外では、リーマス、デパケン、テグレトール、ランドセンのFDA妊娠カテゴリーはすべてD(≒原則禁忌、(注5))ですが、危険度は、デパケン>テグレトール>リーマス>ランドセン>抗精神病薬の順で大きいと考えています。
ところで、てんかん女性では高用量でない単独投与で妊娠成功例が相当程度報告されています。
その場合、デパケン≦1000mg(ふつう徐放剤600-800mgで60μg/ml前後の血中濃度を保つ)、またはテグレトール≦400mgが推奨されます。
神経管閉鎖不全などの奇形がデパケンとテグレトールで起きるのは、葉酸というビタミンBの1種で防げる可能性があるので、妊娠初期、できれば妊娠前から内服(1-4mg/day)するのが推奨されています。
10-20mg/dayのビタミンKも補ったほうがよいようです(特にテグレトールの場合)。出生前1-2週間、ビタミンK1を経口投与し、出生時、新生児に1mg筋肉注射して、新生児出血を予防します。
妊娠中は、リーマス、デパケン、テグレトール、ランドセンの血中濃度が変動しやすいので、頻回に測定します。< /p>
気分安定薬は催奇形性があるから、必要があるなら単独投与が望ましく、すると私見ではリーマスとデパケンくらいしか双極性障害での単独投与の有効性の強い証拠がなく、テグレトール、ランドセン単独投与の有効性には疑いがあるのでした(文献3)。
(注5)FDA妊娠カテゴリーDの正式な記述は、以下です。
危険性を示す確かな証拠がある:ヒトの胎児に明らかに危険であるという証拠があるが、危険であっても、妊婦への使用による利益が容認されることもありえる。(例えば、生命が危険にさらされているとき、または重篤な疾病で安全な薬剤が使用できないとき、あるいは効果がないとき、その薬剤をどうしても使用する必要がある場合)。上記のページには妊娠カテゴリーA〜C、Xの記載も載っています。
2)抗精神病薬(文献3-6,9,13)
これについては、妊娠中に服用してあまり問題がなかったというデータがたくさんあります。
非常に多くの種類があるので、そのどれを選ぶかは主治医と相談しましょう。
ただし、日本の添付文書は服用しないのが望ましいと記載し、それではセレネース(一般名ハロペリドール)は妊婦禁忌です。 しかし海外では妊娠中もセレネースは標準薬として使用されます(文献22)。
抗精神病薬では定型抗精神病薬がおおむね安全です。でも高プロラクチン血症の副作用があって妊娠しにくくなります。
フェノチアジン系とブチロフェノン系に歴史があります。高力価抗精神病薬の方が良いという意見があって、PZC(一般名ベルフェナジン)やトリフロペラジン「ヨシトミ」(一般名トリフロペラジン)などです。
定型抗精神病薬のデポ注射製剤は2-4週間持続するので、妊娠を予定するなら使わないで下さい。妊娠中に使って平気というデータはあるけど、妊娠がわかって急に止められない問題があります。
妊娠中に躁になってコントロールがつかなくなったら定型抗精神病薬で対応可能です。これはかなり効果確実だし歴史のある治療法です。
非定型抗精神病薬は糖尿病の素因がなければ安全でし� �うけど、経験が少ないです。でも、ジプレキサ(一般名オランザピン)>リスパダール(一般名リスペリドン)>セロクエル(一般名クエチアピン)は比較的妊娠症例が多いです(文献6,9)。
高プロラクチン血症の副作用が少ないです。高血糖、糖尿病、肥満を起こしやすくなるとは言われます。
妊娠は糖尿病の初発や増悪を来たしやすい時期なので、家族歴や肥満とか他の危険因子があったら特に注意してください。妊娠糖尿病と言います。
妊娠中の安全性については、上記の問題を除けば、定型抗精神病薬ほど歴史がないけど、やはり比較的安全と言われています。
ジプレキサとエビリファイ(一般名アリピプラゾール)に、アメリカのFDA(食品医薬品局)は、双極性障害の躁病相と維持療法(再発抑制)の適応を認可しました。セロクエルについては、うつ病相と躁病相だけをFDAが認可したけど、たぶん維持療法にも効果があると思われます。
その他の非定型抗精神病薬も、FDA適応は躁病相だけですけど、おそらく維持療法にも有効でしょう。
ですから、妊娠中に双極性障害が安定しない時、これらの非定型抗精神病薬を気分安定薬の代用に使えると思われます(文献3,9)。
文献21によれば、上記のセレネースからエビリファイまでの定型・非定型抗精� ��病薬の妊娠カテゴリーはすべてCでした。
ルーラン(一般名ペロスピロン)、ロナセン(一般名ブロナンセリン)は国内開発品なので、統合失調症でのデータしかなく、妊娠データもありません。エビリファイの妊婦症例報告も非常に少ない数だけでした。
日本で利用できる、非定型抗精神病薬6種(ジプレキサ、リスパダール、セロクエル、ルーラン、ロナセン、エビリファイ)は、双極性障害の急性躁病の治療の他、気分安定薬作用があるのではないかと思われていますが、保険上は統合失調症にしか適応が通っていません。
イギリスのNICEガイドラインは結論として、少量の定型抗精神病薬または非定型抗精神病薬による安定化を勧め、さらに高プロラクチン血症を避ける処方を選ぶように書いています(文献3)。ただ私は、少量定型抗精神病薬が気分安定薬的に作� ��するか、非定型抗精神病薬が真に定型抗精神病薬と同等に安全かはやや疑いを持っています。
3)抗うつ薬(文献3,5-6,13)
妊娠中の鬱には、抗うつ薬がある程度効くでしょう。しかし躁病相と違い、双極性障害のうつ病相に即効・確実に効く薬はありません。
三環系抗うつ薬は、妊娠中安全ですが、双極性障害個人によっては躁転の危険性が無視できないでしょう。以前使用していたものか、使用中のものなら問題が少ないと思われます。
一応、トフラニール(一般名イミプラミン)、トリプタノール(一般名アミトリプチリン)が経験が多いようです。四環系抗うつ薬のデータはやや不足していますが、安全と考えられ、中ではルジオミール(一般名マプロチリン)、テトラミド(一般名ミアンセリン)の経験が多いです(文献5-6)。
SSRIはパキシル(一般名パロキセチン)で催奇形性の警告(FDA� �娠カテゴリーD)が入ったので、他のSSRIを使うか(文献3)、SSRI全部を避けた方がいいかもしれません。
またSSRIの20週以降の使用には、稀だけど新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)の報告があります。
パキシルとジェイゾロフト(一般名セルトラリン)でPPHNの報告例がありますが、ルボックス/デプロメール(一般名フルボキサミンン)にはデータ自体がありません。
また、妊婦が妊娠末期までSSRIを飲んでいると、新生児薬物離脱症候群がでる可能性があります。従来型の抗うつ薬よりSSRIで起きやすいようです。
日本に入っているSSRIでは、妊娠中ジェイゾロフトが比較的妊娠での使用経験が多く安全で、ルボックス/デプロメールは経験は少ないけど安全のようです。
赤ちゃんの性別上のうつ病
三環系抗うつ薬とSSRIの比較では、妊娠での安全性は前者が勝りますが、双極性障害での安全性は個人差もあるけど一般には後者でした。
SNRIなどその他の抗うつ薬はデータが少ないので使用を避けるのが無難です。
また、(充分気分安定薬を使っている場合)、双極性障害に抗うつ薬は効きにくいか、効かないという研究があります。
文献21によれば、三環系抗うつ薬の妊娠カテゴリーはC、四環系はルジオミールしか記載がないけれど妊娠カテゴリーB、デジレル/レスリン(一般名トラゾドン)もカテゴリーCでした。
SSRIは、上述のようにパキシルが妊娠カテゴリーDの他は、ルボックス/デプロメール、ジェイゾロフトはカテゴリーCです。
4)ベンゾジアゼピン系および類似薬(BZ系)(文献3,5-6,13)
睡眠薬、抗不安薬の大部分がこれです。
ベンゾジアゼピン(BZ)系もおおむね安全です(妊娠末期と妊娠第1三半期は除きます)。
妊娠末期に使うと、新生児に移行して、呼吸抑制をおこしたり、薬物離脱症候群、黄疸をおこす可能性があります。
できたら分娩の数週間前から漸減・中止すべきです。
また、セルシン(一般名ジアゼパム)を妊娠第1三半期以内に使った場合、口蓋裂・唇裂(兎唇)が増えたというデータはあります。できれば他のBZ系もこの時期は避けたいです。
しかし、これらの薬は、妊娠中ほぼ全経過にわたり飲んで何もなかったというデータが多いです。
添付文書には治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与することと書いてあります。
また、この群の薬は双極性障害治療の必須薬ではないと考えられています。不眠・不安の問題がなければなるべく漸減・中止か、他の抗精神病薬などに切り替えます。
海外では習慣性が非常に恐れられていますが、日本では常用されているので主治医と相談してください。
日本で抗けいれん薬として適応のランドセンも強力なBZ系の薬で、議論はあるけど気分安定薬作用があるとも言われます。
海外ではランドセンとワイパックス(一般名ロラゼパム)の使用経験が多いようです。
文献21によって今までの薬 の妊娠危険度をまとめると、BZ系でもハルシオン(一般名トリアゾラム)、ユーロジン(一般名エスタゾラム)、ダルメート(一般名フルラゼパム)、ドラール(一般名クアゼパム)などの睡眠薬は妊娠カテゴリーX(禁忌)、睡眠薬のマイスリー(一般名ゾルピデム)だけは例外的に妊娠カテゴリーB、コンスタン(一般名アルプラゾラム)、バランス(一般名クロルジアゼポキシド)、セルシン、ワイパックス、メンドン(一般名クロラゼプ酸)、ランドセンなどのBZ系抗不安薬と気分安定薬は妊娠カテゴリーDに入れられています。
このカテゴリーは治療上の必須薬でないこと、習慣性のためか厳しめの分類と思います。
5)修正電気けいれん療法(mECT)(文献3-5,11.13)
躁にも鬱にも有効で、妊娠中も安全に行え、催奇形性もありません。ただこれを持っている施設は多くないでしょう。経験豊富な施設でするのが良いと思います。
多くのガイドラインに安全とありますが、症例は海外でもそう多くはありません(文献9)。
6)出産前後の問題(薬物離脱症候群など) (文献3,5,7,9,13,16)
妊婦が分娩直前まで、向精神薬を飲んでいて出産すると、児に入っていた薬剤が急速に消失するため、新生児に薬物離脱症候群(新生児薬物離脱症候群)が起きることがあります。
またそれとは別に、新生児に薬物が移行して問題(呼吸・中枢神経抑制など)を起こすことがあります。後者は薬物が代謝・排泄されるまで、新生児をサポートする治療が主体です。
理想は、新生児への有害反応防止のために、出産前から慎重に薬物を漸減・中止することです。
しかし無理な漸減・中止はかえって悪影響のこともあるので、よく相談してください。
薬物離脱症候群で、特に有名なのが、BZ系の薬で、妊婦・新生児双方に薬物離脱症状を起こします(新生児の過敏症状・筋緊張亢進など)。
一方� �新生児へのこれらの薬物移行によって過鎮静、呼吸抑制遷延なども起きえます。
抗うつ薬はおおむね安全と見られていましたが、SSRIの一部で起こることから全体に注意が必要です。
5.双極性障害は遺伝しますか
今、精神疾患について多因子遺伝が想定されていますが、病気そのものに関係する疾患遺伝子と、疾患ではなくて感受性に関係する疾患感受性遺伝子(例:環境因子に対する脆弱性遺伝子)が存在するのではないかとも考えられています。
どちらかというと後者の方が多くて、それらと環境因子との関連で発症すると考えられています。
それを単純化したのが、2回打撃仮説(two-hit hypothesis)です。
脆弱性を受け継いだ場合(第1撃)のみでは精神疾患を発症はせず、さらなる環境の影響(第2撃)があって精神疾患は発症するというものです。
もちろん、2回打撃だけと言うのは、単純化した仮説で、実際はさらに複数の遺伝要因、環境要因が複雑に相互に影響しあうでしょう。
双極性障害の場合、一般人口での発病危険度は1%、患者さんの子供の場合9%というデータがあります。
これを多いとみるか、容認できるリスクと見るかはご家族の選択です。
危険はありますが、遺伝以外の種々のファクターがあり、完全な予測をするのは困難です。
無事生まれているご家庭も多いです。
お子さんが大きくなる頃までに、双極性障害の発症危険因子予知・発症予防・治療が画期的に進んでいるかもしれないです 。
6.出産後の注意点は何ですか(文献3-6,8-9,13,14)
妊娠中は精神的に落ち着いていても、出産後状態が悪くなる人がいます(頻度は、最近の総説では無治療の場合20-70%(文献4,9,13)。出産前後に必ず精神科主治医の診察を受けましょう。再燃の場合は心理・社会的治療、各種内服、注射治療を速やかに再開しないといけません。
新生児の世話を家族が手伝う必要があるかもしれません。分娩後抑うつ、マタニティブルー、産後うつ病などと言われ、普通の人でも調子を崩しやすいので注意しましょう。
海外の文献では、出産後の増悪に備えて、妊娠後期あるいは分娩直後から気分安定薬や抗精神病薬などの投与を強く勧めているものがあります。
しかし、この時期の投与は経験豊富でないと難しいし、日本では一般的でないのでここでは詳しく記載していません。過去の出産後に精神症状出現の既往がある場合は予防的治療の適応になるかもしれないので、海外文献を参考にして、主治医と相談して下さい(文献3-5)。
授乳について、日本では乳汁に移行するので全てダメと注記されています。その理由は、ほとんどの向精神薬は母乳に移行してしまい、従って内服・注射をしている限りは、授乳を諦めてもらうのが原則だからです。人工乳に優る母乳のメリットより、新生児・乳児に向精神薬を飲ませてしまう危険が大きいと考えられていました。
妊娠中は、胎児と母親は一心同体で切り離せないから、妊婦の治療のために、胎児が多少危険にさらされるのはやむを得ないけど、出産後は乳児への危険を第一に考えます。つまり、妊娠中に使うのがやむを得ないとされた薬が、出産後、授乳するなら使用はダメで、使うなら断乳しなさいと言うことがあります。
また妊娠中薬の代謝は母体が行ないますが、出生後は新生児が自ら行なわねば� ��りません。しかし新生児・乳児の肝・腎・心機能などが未熟なために、薬の血中濃度・代謝・作用はかなり複雑になります。
新生児の肝酵素のP450は成人の半分、腎機能のGFRは30-40%で、8-12週にやっとピークになります。未熟児や早産・低体重児などでは授乳を避けるのが無難で、数ヶ月ぐらい代謝機能の成熟化を待つ方法があります。
満期産の新生児でも、代謝能力は低く、3週くらいで上がってきます。それまでか、さらに8-12週まで待って、授乳を開始することも可能でしょう。断乳処置をとらず、授乳能力を維持する選択もあるでしょう。
一方、海外では授乳をかなり許可しています。例えば多くのガイドラインで、てんかん女性の場合と同様デパケン、テグレトールは授乳可として(文献3-5,7-8,14,15)、リーマスは禁忌または非常に慎重投与です(禁忌としているガイドラインも多いです)。
リーマスについては、少なくともVigueraの論文(文献14)で、乳汁と乳児の血中濃度を測って安全と主張していますし、Yonkers(文献5)の総説も許可する方針です。
一方、Kohen(文献7)とBrigham(文献11)とはリーマスを絶対授乳不可の禁忌としています。Burt(文献8)は推奨せずでした。
NICEガイドライン(文献3)はリーマス、BZ系は授乳不可として、抗精神病薬を授乳可としていました。抗けいれん薬は個々に考慮のようです。
SSRIについては比較的危険なもの(プロザックなど)もある けど日本では未認可です。ジェイゾロフトが比較的安全でしょう。ルボックス/デプロメールはデータがあまりありません。
BZ系でも、ランドセンは乳汁に移行しないという報告がありました。
アモバン(一般名ゾピクロン)は乳汁に移行しやすいので避けるべきですが、マイスリーはあまり移行しないそうです。
気分安定薬の授乳危険性は、文献5,7によればリーマス>テグレトール≒デパケン、文献8によればリーマス>テグレトール>デパケンのようです。
一方、文献21によれば、リーマス(L4)>ランドセン(L3)>テグレトール(L2)≒デパケン≒トフラニール≒ジェイゾロフト≒ルボックス≒パキシル≒セレネース≒ジプレキサでした。L1〜L5は授乳安全度で参考文献21に説明があります。L1がもっとも安全で,L5は禁忌です。
ただし非定型抗精神病薬の安全性については歴史がないし、文献21による� �、セロクエル(L4)>エビリファイ(L3)≒リスパダール>ジプレキサ(L2)と個々の薬剤で成績が異なるので注意が要ります。
しかし、文献23はジプレキサが危険という成績を載せていました。
てんかん女性のデータは多いので、充分に新生児・乳児を小児科でチェックするなら、テグレトール、デパケンは可能のように思います(文献5,10,15)。
もし、妊娠後期に向精神薬を飲んでいて有効だったら、授乳する時の薬剤の授乳安全性を考えての変更は逆効果かもしれません。新生児の未熟な代謝機構に複数の薬をさらすからです。
そもそも妊娠中に母親が服用していれば、薬の胎児への移行は相当量ですが、乳汁を介する移行量は少ないことが多いです。
胎児の血中濃度が母親の治療濃度の10%以下の場合はあまり心配する必要はないそうです。
妊娠中に母親が内服していない薬を分娩後開始する場合の授乳は、乳児には新たな薬の暴露で、より慎重な対応が要ります。
母親と主治医が上記のデータに納得すれば、相談の上、授乳がより多くの場合に許可されるかもしれません。
7.男性が双極性障害の薬を飲んでいて、パートナーが妊娠した場合の影響
これは、母親が飲んでいる場合に比べてほとんど影響がないと考えられています。
もし影響があるとしたら、1)直接的な精子への影響、あるいは 2)精液を介しての女性への薬の移行です。
1)については、精子の数は膨大ですし、異常になった精子は卵子を受精させられないと考えられるので、ほとんど問題がないでしょう。
2)これが示唆されるのは、よほど強力な催奇形性のある薬で、抗ウイルス薬のリバビリンとサリドマイドぐらいです。
詳しくは、おくすり110番のこのページに詳しく書いてあります。
つまり危険なのは限られた毒性の強い薬だけで、免疫抑制薬、抗ウイルス薬、抗リウマチ薬、コルヒチン(痛風発作治療薬)、グリセオフルビン(白癬治療薬、とくに爪の水虫の治療)、エトレチナート(乾癬や魚鱗癬など皮膚の重症の角化症治療薬)などぐらいです。
代表的な気分安定薬のリーマス、デパケン、テグレトール、抗精神病薬、� �うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などは、問題ないでしょう。
ただし、男性も妻の産後にうつ病になるという報告もあったし、夫にとって、妻の妊娠・出産・赤ん坊の世話などは、喜びでもあるけど、はりきりすぎて躁転したり、将来を考えすぎて鬱になったり、それなりのストレスにもなると思います。つまり、できるだけ夫の双極性障害が安定している時期の妻の妊娠が望ましいでしょう。
もし、妻が妊娠した後に夫の双極性障害が不安定になっても、当然ふつうの治療ができます。
参考文献:
文献は総説が中心で、なるべく無料でダウンロード可能なものを選んでいます。
全論文が読めるものは、HTML版とPDF版の両方のURLを記載しています。それ以外はアブストラクト(要約)のみが読めます。
もし主治医などに読んでもらうなら、PDF版で印刷しましょう。
16-19)に日本語の文献を引用していますが、本文中ではほとんど言及していません。
内容が英文文献よりきつめに書かれて矛盾しているし、少し記載が古いものもあったからです。
1)双極性障害の治療スタンダード 樋口輝彦、神庭重信編(星和書店)
・ガイドライン
2)アメリカ精神医学会(APA)の双極性障害患者治療のプラクティス・ガイドライン
Practice Guideline for the Treatment of Patients With Bipolar Disorder Second Editionの妊娠の項には、詳しい説明が出ています。
このページ内の B. Demographic and Psychosocial Factors、2. Pregnancy以降を見てください。
2. Pregnancy(妊娠)
a) Continuing/discontinuing medications. (薬を継続するか、中止するか)
b) Prenatal exposure to medications. (胎児への薬の暴露)
c) Prenatal monitoring. (胎児のモニター)
d) Postpartum issues. (出産後の問題)
e) Infant medication exposure through breast-feeding. (授乳によって乳児が薬に暴露されること)
PDF版)
HTML版)
アメリカ精神医学会(APA)のURL
3)イギリスNICEガイドライン
CG38 Bipolar disorder: Full guideline 2006 592ページ中のp543-555の付録20 【重要】
CG38 Bipolar disorder: NICE guideline 2006 76ページ中p47-54
4)CANMET 2005 カナダ気分障害・不安障害ネットワーク
・論文
5)妊娠中および分娩後の双極性障害治療管理
Yonkers:Management of bipolar disorder during pregnancy and the postpartum period. 2004 【最重要】
6)妊娠中の向精神薬
Kohen:Psychotropic medication in pregnancy 2004
7)向精神薬と授乳
Kohen:Psychotropic medication and breast-feeding 2005
8)授乳中の向精神薬使用
Burt:The use of psychotropic medications during breast-feeding. 2001
9)妊娠・授乳中の双極性障害予防療法:最近の気分安定薬を中心として
Gentile:Prophylactic treatment of bipolar disorder in pregnancy and breastfeeding: focus on emerging mood stabilizers. 2006
10)催奇形性と抗けいれん薬:神経学から精神医学への教訓
Viguera AC:Teratogenicity and anticonvulsants: lessons from neurology to psychiatry.
J Clin Psychiatry. 2007;68 Suppl 9:29-33. Erratum in: J Clin Psychiatry. 2007 Dec;68(12):1989.
11)双極性障害の精神薬理学
Peter M. Brigham, MD:The Psychopharmacology of Bipolar Disorder 07 全33ページ 【重要】
12)双極性障害女性の妊娠・分娩後の協調的管理:薬理学的考察
Ward S, Wisner KL.:Collaborative management of women with bipolar disorder during pregnancy and postpartum:pharmacologic considerations.
medscapeのサイトは英文で登録をする必要がありますが、ただで読めます。
下記は同じ内容で、下記が正式論文。ただし助産婦向けの雑誌。
J Midwifery Womens Health. 2007 Jan-Feb;52(1):3-13. Review.
13)妊娠中の双極性障害管理
Stowe:The Management of Bipolar Disorder During Pregnancy 2007
14)母乳および乳児のリチウム濃度:臨床的示唆
Viguera:Lithium in breast milk and nursing infants: clinical implications. Am J Psychiatry. 2007; 164(2):342-5
15)兼本浩祐:てんかん学ハンドブック 医学書院 2006年
抗けいれん薬と妊娠・授乳のことが詳しく書かれています。
16)田辺英 1.妊娠中の向精神薬の使用 精神科治療学 22巻増刊号 2007.11 281
17)藤井学 6.妊娠中の向精神薬治療 臨床精神医学 36巻増刊号 2007.299
18)木下善弘,古川壽亮 気分安定剤(lithium・valproate・carbamazepine)の最近のエビデンス 臨床精神薬理 2007.12月号10.2181
19)岡野禎治 妊娠・産褥期ー最近の予防・介入に関した知見ー日本臨床 2007.9:1689
20)FDA:デパコテ(バルプロ酸)添付文書情報
Drugs@FDA: Depakote Label Infomation
21)アメリカ産婦人科学会委員会の妊娠・授乳中の向精神薬使用に関する臨床管理ガイドライン
ACOG Practice Bulletin: Clinical management guidelines for obstetrician-gynecologists number 92, April 2008 (replaces practice bulletin number 87, November 2007). Use of psychiatric medications during pregnancy and lactation.
22)妊娠後期での非定型抗精神病薬投与:胎盤通過と産科的転帰
Newport DJ, :Atypical antipsychotic administration during late pregnancy: placental passage and obstetrical outcomes. 2007
23)抗精神病薬投与中の母乳栄養に伴う児の安全性について:系統的レビュー
Gentile S.:Infant Safety With Antipsychotic Therapy in Breast-Feeding: A Systematic Review 2008
22-23)について解説すると、ジプレキサは当初とても人気のある非定型抗精神病薬だったので、多くの統合失調患者、双極性障害患者に使われ、したがって妊娠症例もたくさんありました。
リスパダール、セロクエルでも同様だったのですけど、高血糖・肥満や糖尿病のリスクが当初考えられていたよりあり、ジプレキサで特に危険だったようです。糖尿病はそれだけで催奇形性の危険度を上昇させます。
私見では、もし糖尿病や肥満のリスクを回避できるなら、症例が多いので、これらの使用はものすごく危険とは思いません。
23)と9)は同じ著者が書いたけど、かなり意見が変わりました。
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