2012年5月16日水曜日

2つの無作為対照比較研究で相反する結果が得られた後



椎間板に起因する慢性疼痛のための温熱療法である椎間板内温熱療法(intradiscal electrothemal annuloplasty;IDET)の価値について、2つの無作為対照比較研究(RCTs)では正反対の結論に到達した。

2つの研究によるとIDETは、対象患者を注意深く選択すればある程度有用な効果を示すのか、それとも臨床的に価値がないのか、そのいずれかである。

どちらの研究の結果が正しいのか明らかではない。両研究は、一流の研究者グループが綿密なプロトコールを遵守して、IDETを検証した独立した研究であった。

「これらの知見はIDETの賛成派と反対派の両方にとって裏付けになるので、議論が続くことは確実です」と、ブリテイッシュコロンビア州のバンクーバーで開催された国際腰椎研究学会(ISSLS)での両研究に関する討論の中でGunnar B.J.Andersson博士は意見を述べた。

統計学的に有意な効果?

テキサス州で64例の患者を対象に実施した研究では、IDETが疼痛、機能および気分に対してプラスの作用を及ぼしたことが明らかになった。IDETによる治療を受けた患者は、6ヵ月後の経過観察時にビジュアルアナログ疼痛スコア(10ポイントスケール、1O=最大疼痛)が平均2.4ポイン
ト改善したのに対して、偽のIDETを行なった対照群は1.1ポイントの改善であった。同じくIDET群は、Oswestry活動障害インデックスのスコアに関しても優っていた。

筆頭著者のKevin Pauza博士は、「治療群では疼痛に関して統計学的に有意な改善が認められました。対照群の一部の患者にも改善が認められました。両群とも機能が改善しました」と述べた(Pauza, et al.,2003を参照)。

本研究は、IDETによって疼痛および活動障害に関して統計学的に有意な効果が得られたかどうかを検討するために計画された。それらの改善が臨床的に重要であったかどうかを評価するために計画されたものではなかった。

Pauza博士は「疼痛スコアにおける2.4ポイントの差が臨床的に重要かどうかを判断するのは、個々の臨床医の判断です。私は、IDETは椎間板に起因する腰痛の患者という選択された群に適していると思います」と述べた。

臨床的には価値がない?

対照的に、オーストラリアのRCTは、IDETまたは偽IDETによって疼痛および機能に関して、臨床的に重要な改善が得られたどうかを理解するために特別に計画されたものであった。すなわち、腰痛アウトカムスコア(LBOS)における7ポイント以上の改善、SF-36問診票の3つのサブスケールにおける改善、およびIDETに起因する神経脱落症状がないことを、臨床的に重要な改善とあらかじめ定義した。

Brian J.C. Freeman博士らによると「どちらの治療方法でも、被験者は臨床アウトカムの改善の基準を満たしませんでした」(Freeman et al.,2003を参照)。

「我々の方法に基づく限り、IDETは適切な治療法ではないというのが現段階での我々の見解です」と、著者(senior author)のRobert Fraser博士は意見を述べた。

最も確実な説明?


不安は、パニック発作の随伴症状を攻撃する

両研究についてピアレビュー後の論文が発表されるまで、読者の皆さんはそれらの結論について判断するのを待つべきである。

さらなる研究の進展を待つこともできる。これらの研究は明らかにこの温熱療法に関する最終決定ではない。ISSLS学会で数名の研究者は、これらの研究は規模が小さ過ぎるのでIDETの決定的な研究ではないと示唆した。

英国の研究者であるJeremy Fairbank博士は、小規模の無作為研究では「往々にして偶発的な知見が得られるものです」と述べた。

診断の不確実性?

Andersson博士は、診断が不確実であるため、これらの研究は根本的な問題を有する可能性があることに言及した。疼痛性の椎間板の治療法に関する研究は、研究者がより正確な診断方法を見つけるまではあいまいなものとなる可能性があると、博士は示唆した。

Andersson博士は、「我々は疼痛性の椎間板の治療法を見つけるために莫大な労力と時間を費やしているが、まだそれらの診断方法さえわかっていないのです。多分、より良い診断方法の研究に、もっと多くの時間をかけるべきでしょう」。

テキサスのRCT

Pauza博士らは、被験者侯補となる4253例の患者に対して電話によるスクリーニングを実施した。このうち1360例が無作為割り付けを受けることに同意し(残りのほとんどの患者は地理的な問題のため治験プロトコールに適さなかった)、260例が椎間板造影の適格患者で、64例が椎間板造影後に研究参加基準を満たした。

研究に参加する条件として、1または2椎間レベルに椎間板内障を有していなければならなかった。皆、6ヵ月以上持続する腰痛があり、痛みは座位または立位で増悪し横になると緩和した。被験者は、損傷のある椎間レベルの椎間板の高さが最大でも30%しか減少していなかった。

研究では、うつ病、脊柱管狭窄、脊椎すべり症、側彎症、4mmを超える椎間板ヘルニア、根性痛、および神経学的異常のある患者、ならびに以前に脊椎の手術を受けたことのある患者を除外した。同じく二次的利益の問題を避けるため、労災補償請求患者または訴訟に関係している患者は研究から除外した。患者は一連の保存療法がすべて無効であった。

すべての被験者は、体積と圧力をコントロールするマノメーターを用いた疼痛誘発性CT/椎間板造影で陽性所見が得られ、偽の椎間板造影での加圧に対しては反応しなかった。各椎間板に異なる3回の時点で圧力を加えた。

被験者を3:2の比で無作為割り付けし、37例がIDETに割り付けられた。外科医は割り付けられた治療を手術室で知らされたが、これ以降患者とは連絡を取らなかった。


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両群とも意識下鎮静を受けた。IDET群では、17ゲージ針を通してカテーテルを導入し、治療する椎間板の後部全体および両側の後部四半領域が治療範囲に入るようにカテーテルを操作した。対照群では、針を挿入したが外側線維輪より中には入れなかった。両群とも、IDETの典型的な外観と音に晒した。いずれの群も、治療の割り付けに気づいたようには思われなかった。

両群の術後のプロトコールは6週間の装具装着および監督下での運動を含めて同等であった。被験者、理学療法士およびアウトカム評価者は、6ヵ月後のアウトカム評価まで治療の割り付
けについては盲検下におかれた。

べースラインでIDET群のビジュアルアナログ疼痛スケールの平均スコアは10ポイント中6.6であった。6ヵ月後の経過観察では平均疼痛スコアは4.2に改善した。対照群の平均疼痛スコアは、べースラインの10ポイント中6.5から経過観察時には5.4にまで改善した。

IDET群は活動障害スコアに関して優っていた。Oswestry活動障害スコアの平均値は、べースラインの平均31.1から6ヵ月後の経過観察では20.2にまで改善した。対照群における改善はこれより小さく、べースラインの平均33.1から6ヵ月後には28.5にまで改善した。

オーストラリアのRCT

オーストラリアのアデレードで行なわれたRCTでは、労災補償患者を含む多岐にわたる患者グループについて検討した。オーストラリアの患者は米国の研究の被験者よりも重症で、活動障害度が高かった。それらの平均べースラインOswestry活動障害スコアは、テキサスの被験者より約
10ポイント高かった。

Freeman博士らは、57例の患者を2:1の比で無作為割り付けし、38例が真のIDET群、19例が偽のIDETの対照群に割り付けられた。研究の対象になった患者は、1または2椎間レベルにおける症状を有する椎間板変性、後部または後外側の線維輪の亀裂、および疼痛誘発性のCT/椎間板造影での陽性所見を有していなければならなかった。いずれの患者も、Pilatesトレーニングを含む厳密な保存療法プロトコールは無効であった。

小規模の無作為研究では往々仁して偶発的な知見が得られる
脊椎治療の価値を証明するのは 長く困難な道のりである

すべての被験者が意識下鎮静を受けた。IDET群と対照群の両方の椎間板にカテーテルを挿入した。第三者の技師がジェネレータのスイッチを入れてIDET群に電熱エネルギーを供給し、対照群のカテーテルにはエネルギーを供給しなかった。

患者は、標準化されたリハビリテーションプロトコールを遵守した。外科医、患者ならびにリハビリテーションおよびアウトカム評価のすべての関係者には、治療の割り付けが知らされなかった。


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オーストラリアの研究チームは、腰痛アウトカムスコア、Oswestry活動障害インデックス、SF-36問診票、Zung抑うつインデックス、および改変された身体問診票を含むさまざまなアウトカム評価尺度を利用した。前述したように、治療の成功の主要判定基準は、6ヵ月後の経過観察時の「臨床的に重要な改善」についてあらかじめ定めた一連の基準であった。

結果は惨惰たるものであった。Freeman博士らによると、「どちらの治療群にも、成功したアウトカムの基準を満たした被験者はいませんでした。さらなる分析でも、6ヵ月間にいずれの群にもアウトカム評価尺度の有意な変化は認められませんでした」。明らかに本研究で実施したIDETは有効な治療ではなかった。

オーストラリアの研究者は広範なサブグループ分析を実施したが、結果がより優れていた群を同定することはできなかった。

どちらの研究が優れていたか?

セッションの議長は、両方の著者に自分の研究が他方より優れていると推測する理由を尋ねた。Pauza博士は、RCTを行なう前に100例以上のIDETを実施しており、その技術に十分に習熟していたと言及した。博士は、オーストラリアの研究グループはこの技術に関する経験が比較的少なかった可能性があると示唆した。

Pauza博士は、テキサスの研究では、椎間板内障および椎間板に起因する疼痛のない患者を除外するために、すべての患者が注意深く計画された対照となる綿密な偽の椎間板造影を受けたと報告した。

博士は、彼の研究では対象患者の適用基準を厳しくし、椎間板に起因する疼痛を有する高度に選択された患者集団について検討したと述べた。その結果、交絡因子が結果に作用した可能性は低いと思われる。IDET技術そのものは椎間板のより広い範囲に適用された。

研究はさまざまなアウトカムの分野における統計学的に有意な改善を検出できるよう計画され、IDETが偽のIDETより優れていることが認められた。

幅広い集団

オーストラリアの研究の筆頭著者は、彼の研究は慢性の変性性椎間板疾患を有する、より典型的な患者集団について検討したと述べた。オーストラリアの研究の被験者は、より重大な疼痛と活動障害を有していた。Freeman博士は「我々はより重症の患者を治療しました」と述べた。

Freeman博士は、オーストラリアの研究方法のほうが優れていたと示唆した。治療を行なったアデレイドの外科医は、テキサスの外科医とは異なり、治療の割り付けについて完全に盲検下におかれていた。対照被験者には実際に椎間板にカテーテルが挿入されたので(作動させなかったが)、対照治療はより本物に近い"偽の"コントロールであった。

Freeman博士は、テキサスの研究で報告された軽度の改善は臨床的に意味がないだろうと推測した。オーストラリアの研究では、温熱治療の有効性をより正確に検証できる、より厳密なアウトカム基準を使用した。博士は「我々はより厳しい基準を設定しました」と述べた。


どこへいくのか?

両研究が正確な結論に達した可能性がないわけではない。IDETは、テキサスの研究で認められたように高度に選択された患者のサブグループに対しては有効だが、活動障害を引き起こす変性性椎間板疾患を有する幅広い患者集団には効果がないのかもしれない。

Scott Boden博士は、IDETが臨床的により大きな影響を及ぼす、より限定された患者のサブグループが存在する可能性があると示唆した。今後の研究では、それらのサブグループを同定することに焦点を合わせてはどうかと博士は提案した。

複数の研究者から2つの研究を併合して再分析すべきだと提案された。「簡単にできるでしょう」とFairbank博士は述べた。

Alf Nachemson博士は、IDETが実際に臨床的に意味のある改善につながるかどうかを理解するため、併合したデータをより厳密なオーストラリアのアウトカム基準に従って再分析すべきだと示唆した。

しかし、異なる研究(これらの研究は多くの点で異なっていた)のデータを併合すれば、複雑な方法論に関する問題が生じる。例え再分析でより決定的な結果が得られたとしても、恐らくより大規模な無作為研究およびプロスペクティブなコホート研究で確認される必要があるだろう。

IDETに関する2研究で、1つの重要ポイントが完全に明快に確認された:脊椎治療の価値を証明するのは長く困難な道のりである。しかし、この分野に関わる者は誰もこのことに驚きはしないだろう。

参考文献:

Freeman BJC et al., A randomized controlled efficacy study: Intradiscal electrothermal therapy (IDET) versus placebo, presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine, Vancouver, 2003 ; as yet unpublished. 

Pauza K et al., A randomized, double-blind, placebo controlled trial evaluating intradiscal electrothermal anuloplasty (IDET), presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the Lumbar Spine. Vancouver, 2003 ; as yet unpublished. 

The BackLetter 18(7) : 73, 79-80,2003.


(加茂)

椎間板性の疼痛に対してのIDETは日本ではなじみのない治療法です。

椎間板性の疼痛ならば圧痛点はないはずです。圧痛点のあるものは椎間板性の疼痛に筋筋膜性疼痛が合併したものでしょう。これらはこの研究から除外すべきです。私の経験げはまず圧痛点のない腰痛はありません。



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